子どもの幸福度、世界1位の背景と実感
オランダは、「子供の幸福度世界一」と言われている国です。UNICEFの最新レポートによれば、オランダの子どもたちは43カ国中で「人生に満足している」という割合が最も高く、精神的幸福度の指標でトップに立っています。総合評価でも1位。(日本は身体的健康が1位)
出典:ユニセフ イノチェンティ研究所「子供幸福度ランキング」(2025年5月14日発表)
そんな環境に惹かれてか、近年は日本から教育移住してくる家族も増えています。
今回は、4歳と2歳の娘を連れてオランダに移住して体験したことを記していきます。
現地校か、インターナショナルスクールか
子連れ移住で悩むのが、学校選びです。
オランダの小学校(basisschool)は4歳から入学でき、授業はすべてオランダ語。外国籍の子にはNT2クラス(オランダ語習得のための補習)もあります。現地校は無料で通えるのは魅力ですが、言葉の壁は覚悟が必要です。
一方、インターナショナルスクールは英語で学べるため、子どもの適応は早い反面、学費が高額(月1000ユーロ以上)。短期滞在の家族や国際進学を目指す家庭に人気です。
私たちは、経済状況や子どもの将来を見据えて現地校を選びました。英語学習はもちろんですが、国際的な感覚を養ってもらいたい。という思いがあったため、現地校の中でも多国籍の子どもが集まる学校を選びました。
現地校への転校成功までの経緯
娘はオランダ到着時に4歳。教育委員会と市役所に相談し、近隣の3校に問い合わせたところ、モンテッソーリ校でちょうど「転校生枠」に空きが出て、幸運にも12月に入学することができました。私たちは10月に渡航し、12月に住まいが確定、同じ月に入学を果たせた流れです。
オランダには学区という概念がなく、また、学校は条件をクリアすれば誰でも設立ができます。私のオランダの友人も実際に自身の子供のために、自分たちで学校を立ち上げました。
また、人気校は「空き待ち」があり、子供にあってないと感じれば他の学校に「空き待ち」の申し込みができるので、空き次第転向するということも少なくありません。
自由と主体性を大事にする国
オランダでは多様な教育スタイルが共存しています。現地校にはイエナプラン教育が取り入れられている例も多く、異年齢交流やプロジェクト学習、話し合いの時間などが特徴です。私たちが選んだのは、オルタナティブ校として知られるモンテッソーリの現地校で、子どもの自主性を尊重する教育方式です。
クラスは2学年が同一クラスの異年齢クラスで、「イエナプラン教育」も取り入れた学校です。
30カ国以上の子どもたちがいる学校で、異年齢のクラスで学び、みんなで輪になって話し合う時間があり、娘には合いそうだと感じました。
驚きの送迎風景と柔軟な働き方
私が最も驚いたのは、登下校の送迎にお父さんの姿が半数近くいたことです。
登校は8時30分、下校は14時30分。仕事はどうしてるの?と思いましたが、多くの家庭がリモートワークで調整したり、育児休業を活用していました。オランダでは「家庭優先」の価値観が社会・職場に根づいており、実際その柔軟性に、子育て世帯は助けられています。
オランダのRedditという日本でいうYahoo!掲示板のようなサイトでオランダ人の生の声を拾ってみると、会議時間や出勤時間の調整は可能とのこと。
“I don’t attend 8:30 meetings.”
“If you say that you can’t attend 8:30 meetings because you need to drop off your kids, no one will tell you anything.”
“Most employers here offer flexibility.”
「私は8時30分の会議には出席しません。」
「もし、子供を送り届ける必要があるから8時30分の会議に出席できないと言ったら、誰も何も言いません。」「ここでのほとんどの雇用主は柔軟性を提供しています。」
出典:Raddit
このように、会社勤めのパパママでも、働き方と育児の両立が制度的にも社会的にも支えられている実感があります。

学校と保護者の役割分担や関わり方の違い
任意参加の保護者ボランティア
ここでは、保護者の学校参加はあくまで「手を挙げた人がやる」スタイル。
遠足の引率や読み聞かせのボランティアなども専用アプリから、誰か協力してくれる人はいませんか?という連絡が来て、参加できる親が参加します。これを断っても誰も嫌な顔はせず、できる人がやろう。というスタイルが浸透しています。
先生の急なお休み対応
学校のことは、学校の先生が全て責任を持って行う。ということではなく、学校と親が協力して子どもたちを育てていくスタイルです。
驚いたのが、学校の先生が体調不良や忌引きで急遽お休みになる場合、前日または当日にアプリで連絡が来ます。
そして、その場合はそのクラスはお休みになります。笑
「どうしても、家庭で面倒が見れない方は相談してください。」というメッセージを残して。
この場合、親は会社に連絡をして、休暇を取るようです。その場合、会社、同僚も「それは仕方ないね。」という反応で、休暇が取れるそうです。
このように、社会が寛なので、子育て世帯の親のストレスも日本と比べ少ないです。
先生とのコミュニケーションと子どもの学び方
先生とのやりとりは、学校アプリやメールが中心。年に数回の面談で子どもの様子をじっくり話します。また、送迎時に言葉を交わしますし、何かあればその時に話が出来ます。
さらに、数ヶ月に1回、投稿時間から朝礼開始時間までの15分間、教室に入って子どもたちの普段の学習の様子を知れる機会があります。
毎日の宿題はなく、夏休みの宿題もありません。低学年ということもありますが、塾などの習い事を詰め込むということもあまり聞きません。それぞれの子どもの興味の中で水泳やダンスなどの習い事に通わせているようです。
言葉の壁と子どもの適応
子どもの適応スピード
長女はオランダ語、英語ともにゼロの状態で入学しました。
最初は先生の言っていることがほとんど分からず、学校から帰ってくると「眠い」と言ってすごく疲れた様子でした。
幸いにも同じクラスに1歳年上の日本人の女の子がいて、とても仲良くなり、学校以外でも遊んでくれたおかげで、学校生活にも慣れていきました。また、学校側もすぐにオランダ語を習得することを求めず、まずは学校に慣れることを優先してくれました。現在は、学校内にあるNT2クラス(オランダ語習得のための補習)にも通い、友達との遊びを通して日常会話ができるようになってきています。
言葉が通じないストレス
長女は、とても社交的なので、クラスの子達だけなく、他のクラスや他の学年の子たちにも「Hello」や「Bye」を言ってまわります。
一見、とてもうまく順応しているかのように思っていましたが、やはり本人は日本での生活とは違うもどかしさを感じているようで、「遊びたいけど、話せない。」「友達はいるけど1番の友達がいない。」と言います。
実際に、言葉が通じないストレスや興味を惹きたいという思いから、友達にちょっかいを出したり、いたずらをして、それがエスカレートしてしまい、担任の先生に呼び出されることもありました。
担任の先生は、ベテランの先生で経験も豊富。他のクラスの親御さんからも羨ましがられる人気の先生なので、こういった対応の際も、個別に時間をとってくれて、私たちに寄り添ってくれながら一緒に解決策を探ってくれます。

理想だけではない、オランダ教育の現実
もちろん、良いことばかりではありません。
- 都市部では教師不足が深刻
- 学校によって教育の質やサポートの手厚さに差がある
- 自由な教育が、時に「放任」に感じられることも
- 非ネイティブ家庭の子が進路選択で不利になるケースもある
このように、当然ながら良いことばかりではなく「オランダの子どもの幸福度は世界一」という言葉だけを鵜呑みにすることは危険だと感じています。中でも、12歳から始まる中等教育は人生の大きな分かれ道です。
12歳から始まる — 人生の重要な分かれ道
オランダの中等教育は12歳からスタートします。この段階で、生徒は学力や適性に応じて進路が大きく分かれます。具体的には、職業教育(VMBO)、一般教育(HAVO)、大学進学準備教育(VWO)という三つの主要なコースに振り分けられ、それぞれのコースが将来の進学や職業選択に直結しています。
このため、中等教育の選択はその後の人生に大きな影響を与える重要な決断です。12歳という若い時期に、自分の適性や希望に合った進路を選ぶことが求められ、教育制度の特徴として「ここで人生が決まる」と言っても過言ではありません。将来のキャリアや学問の道筋が、この時点である程度形作られるため、多くの家庭や教育関係者が慎重に対応しています。
私たち家族は、その頃には日本に帰国している予定なので、このことについては真剣に考えていないのが現状です。
理想と現実の間で
オランダの教育環境は、日本とは価値観も方法も大きく違います。
自由と主体性を尊重し、豊かな時間を子どもに提供してくれます。同時に、親として家庭と仕事の両立に対しても社会的な理解が広いことが分かりました。
子連れでの移住は、家族にとって大きな挑戦です。
子どもだけでなく、海外での子育ては、親も学び直す機会をもらっているような気がします。
この体験が、同じように検討する親御さんたちにとって、参考や安心材料になれば嬉しいです。