オランダで「仕事をつくる」という選択
私は今、オランダ・アムステルダムでおにぎりの移動販売をしています。
海外移住を考えるとき、誰もがまず悩むのが「仕事をどうするか」
ではないでしょうか。
私も同じでした。しかも英語が得意ではなかったので、「現地法人に就職する」「日系企業に入る」という選択肢は現実的ではないと感じていました。
オランダ移住の目的と前提
私の渡航目的は、「オランダの社会を学ぶこと」。
▶︎詳細は、この記事にまとめています。「公務員を辞めてオランダ移住」
そのため、安定した職に就くというよりも、貯金を活かしながらできる限り生活してみよう。
そんな気持ちで、この期間を「人生の学び期間」と位置づけていました。
だからこそ、安定した収入が得られる会社員よりも、色んな出会いが生まれる仕事を自分でつくるという道を自然に選ぶことになりました。
どのようなビザで滞在するか
これは、そもそもどんな就労ビザを取得するかという話にもつながりますが、オランダは個人事業主ビザ(ZZPビザ)のハードルが比較的低いため、
思考の流れとしては、
①オランダに移住しよう→②ビザはどうする?→③個人事業主ビザが取れるらしい→④どんな事業をやろうか
という流れでした。
つまり、当初から「企業に就職する」という選択肢は考えておらず、「どうやって個人事業を展開していくか」という考えでした。
▶︎詳細はこの記事にまとめています。「オランダ_長期滞在ビザの取得」
仕事(事業)の条件
では、事業を行うとして、どのような事業を実施するのか。
自分の中で決めていた条件は2つありました。
ひとつは「多くの出会いがあること」。
もうひとつは「英語の学びになること」。
「多くの出会いがあること」
「オランダの社会を学ぶ」という目的のため、手法は何があるのだろうと考えた時、大学院に通う選択肢もあるし、ビジネスの場で学べることもあると考えています。
さらには、もう少し切り取りを大きくすると、社会全体を学びの場として捉えることもできます。
オランダに住んでいる人、道ゆく人全員が自分にとって先生で、多くの人と出会うことが学びになるし、その出会いがやがてオランダでの選択肢を増やしていくだろうと考えました。
「英語の学びになること」
これからオランダで多くの経験を求める上で、英語の上達は必須と考えました。
そのため、英会話の機会が多い事業にすることが重要でした。
この2つを満たす働き方を考えたとき、BtoBよりもBtoCのビジネスでコミュニケーションの頻度を上げることが良いだろうという結論に至りました。
日本食を通じてオランダで挑戦
渡航前から決めていたのは、「オランダで日本食を売ろう」ということ。
日本食は海外でも人気があり、現地の人たちとの会話のきっかけにもなります。
候補は3つ。
「たこ焼き」「おにぎり」「和菓子」
現地で調査した結果、私たちは「おにぎり」を選びました。
材料調達が容易なこと、初期投資がかからないこと、寿司やおにぎりの人気がオランダでも高まっていること。
そして、「おにぎり」という食べ物のストーリーが私たちのストーリーとマッチすると考えたことも大きな理由でした。
おにぎりの別名は「おむすび」。
「むすび」は“結び”を意味します。古来、日本人は山を神格化し、山の形をしたご飯を食べることで神の力をいただいたとされます。人と自然、人と人を結ぶ——。
私たちはおにぎりを通して、オランダの人々とそんな“結び”をつくりたいと思いました。
ただおにぎりを売るのではなく、おにぎりをきっかけにオランダでたくさんの出会いを創りたかったのです。
渡航から開業までのリアルな5ヶ月
渡航してから、実際に事業を始めるまでには5ヶ月かかりました。
理由は主に2つあります。
ひとつは、家探しに時間と気力を取られたこと。
オランダの住宅事情は厳しく、想像以上にエネルギーを使いました。
▶︎詳細はこの記事にまとめています。「家が全然見つからない!_オランダの住宅事情」
もうひとつは、先に述べたとおり、販売物を日本で決定せずに、現地で市場調査や行政手続きを一から行ったことです。
移動販売という答えにたどり着くまで
当初は、マーケット(市場)で販売するつもりでした。
しかし、マーケットは市役所登録と各マーケット登録が必要で、出店は、当日マーケット会場に行って申し込みをして、市役所の登録番号順に優先されるため、古参の方々が優先され、新参者は当日現地に行ってみないと出店できるか分からない、という仕組みでした。
さらに、マーケットは早朝から夕方までの開催時間のため、小さな子どもがいる私たち家族にとっては融通が利きづらいということも難点でした。
そんな中で見つけたのが「移動販売」というスタイル。
日本でいう屋台のような形態で、場所も時間も自分で選べる自由度が魅力でした。
おにぎり移動販売、いざスタート!
私たちは、子どもの送迎時間を避けてランチタイムに販売をしています。
さらに、英会話に不安があった私にとって、お客さんとのやり取りが毎日の英語トレーニングにもなりました。
「おにぎりを売る」ことが、「英語を学ぶ」ことにもつながったのです。

肝心のおにぎりの売れ行き
正直、「本当に売れるのか?」と不安も大きかったですが、オランダでのおにぎりの認知度が高いことや親日の人たちが多いという事もあり、やってみると、思った以上に反応がよく、さらにはオランダの人たちの優しさにも助けられました。
知っている日本語で話しかけてくれる方も居たり、おにぎりの移動販売を面白がってくれる方も多く、たくさんの方にサポートされて毎回店頭に立つのが楽しみになりました。
もちろん、良いことばかりではなく、電車のストライキを知らずにお客さんが全くいなくておにぎりが大量に売れ残ったり、同じ場所に全く同じ売り方をするおにぎり屋が現れたり。
それでもありがたいことに、今ではランチタイムの営業で100人以上のお客さんが訪れるようになり、注文待ちの列が出来るまでになりました。


オランダ人の優しさに包まれながら
私たちが販売をしていると、お客さんだけでなく、多くの同業者からもサポートを受けます。
ある雨の日に子どもを連れて販売をしていた時、大雨になってしまい一時販売を中断していたところ、近くのレストランのスタッフが近寄ってきて「マネージャーから言われて、残りのおにぎりを全て買うよ。これで君たち家に帰れるでしょ。」と。
レストランを見ると、笑顔でこっちを見てくれているマネージャーと思しき女性の姿が。
また、ある日は、スターバックスのマネージャーがスタッフ分のおにぎりをたくさん買いに来てくれたり、近くのサルサ屋さんが「いつも頑張ってるね!」と言ってランチを無料で作ってくれたり。
日本だったら、「営業の邪魔だ。」と言われそうな場面でも、「頑張ってるね!」「美味しそうだね!」と言って、温かくサポートをしてくれます。

今後の展望と仲間募集

今後は、生産体制と販売体制を整えて、フランチャイズ(FC)展開をすることにしました。
もしオランダに移住したい方で「仕事が見つからない」「どうやって稼いだらいいかわからない」という方や、すでに移住していて「何か自分でも挑戦してみたい」と思っている方がいたら、ぜひお声がけください。
一緒に、オランダに日本食、日本文化の魅力を届けていけたら嬉しいです。
動いた先に未来が待っている
海外生活は、やはりお金がかかります。
ヨーロッパの物価は日本と比べて高く、オランダの4人家族の生活費は、日本円で80〜100万円/月かかります。
(参考:Expatistan.com)
近年は円安の影響もあり、現地通貨で収入を得ることが大切になっています。
現地企業に就職するのも一つの方法ですが、事業を始めるという選択肢もあります。
そこから、自分が海外で実現したいことを少しずつ形にしていく——そんな生き方もあると思います。
アムステルダムでおにぎり屋を始めて7ヶ月。
本当にたくさんの出会いがあり、想像もしなかった展開もありました。
海外での仕事づくりは、日本のように上手くいかない事も多いです。
だからこそ、最初から緻密なプランを立てる必要はないかもしれません。
大きなビジョンは持ちながら、目の前の変化に柔軟であること。
プランAがダメでもBが生まれ、思いがけずCのチャンスが訪れることもあります。
海外での生活はそんな柔軟性が求められるんだなということを日々感じています。
英語が苦手でも、経験がなくても大丈夫。
小さな行動から、自分らしい働き方が生まれていくのだと思います。
私たち日本人はとても堅実な国民性を持っています。
私自身も、日本にいると成功よりも失敗を恐れて挑戦しない事も多かったように思います。
海外で暮らしてみて感じるのは、「わからない未来を心配するより、まずやってみること。動いた先に未来が待っている。」ということでした。
海外で仕事をつくるのは、特別な人だけの話ではありません。
あなたの「できること」から、小さな一歩を踏み出してみませんか。






